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Visit 02. 三重県 尾鷲ヒノキ 林業地 デザインがつくる未来とは

案内してくれたのはグリーンマムの川畑理子さんです。「速水林業」の山林と土場、製材所「塩埼商店」を見学し、尾鷲ヒノキをふんだんに使って建てられた「熊野古道センター」で意見交換をしました。

案内人

川畑 理子さん
もりまち
コーディネーター
川畑 理子さん 株式会社グリーンマム 代表

大学卒業後、幼児教育教室講師を経て株式会社グリーンマムを起業(2009年)。「子どもたちの未来を守る」を理念にサステナブルな木材利用を提案し様々な空間づくりを手掛ける。木材産地とユーザーをつなぐ木材のコーディネーターとしても活躍している。速水林業代表・速水亨の次女。

オリエンテーション 速水林業 森の研修室

森と海が隣り合う、江戸時代からつづく林業地

速水林業の大田賀山林の見学の前に「森の研修室」で速水亨さんによるオリエンテーションを受けました。寛政2年(1790年)に創業した速水林業の歴史や、環境に配慮した森づくりの考え方、第三者認証制度である「FSC森林認証」の意義やSDGsとの親和性についてのお話をお聞きしました。
森を傷めない配慮や使いやすい木材を生産するための施業方法など、一本の木を育てるために注ぎ込んでいる労力と情熱に驚かされました。

日本の三大美林(人工林)の一つ

速水:「三重県南部の熊野灘に面した尾鷲市・紀北町は、標高1000~1400mの三重県有数の山岳地帯から海に向かった急斜面の地形となっています。平地は少なく、森林率は90%でその過半数が人工林。そして、その9割がヒノキ林という全国でも例をみないヒノキに特化した林業地です。尾鷲ヒノキ林は、日本の三大美林(人工林)の一つにもあげられています。この地域では寛永元年(1624年)から続く400年近い林業の歴史があります。リアス式地形の尾鷲地域には良い港があり、古くから盛んだった海運を利用して江戸に木材を送っていました。」

日本初の「FSC森林認証」を取得した持続可能な森づくり

速水:「尾鷲ヒノキの強度や耐朽性が高く、美しい木肌なのには理由があります。 一つは急峻な地形で土壌も痩せているので、木の成長が遅く、年輪が緻密になること。そして温暖な気候と日本でも有数な多雨地帯であることから、一般的には成長の止まる夏から秋になってもまだ止まらず、「秋材」※の幅が広くなります。それに加えて、土壌が豊かになるよう光を管理する間伐で年輪幅を揃える密度管理、枝打ちなどの丁寧な施業を代々続けてきたことにより、優良な木材を産出しているのです。
2000年に、日本で最初、完全な人工林では世界で6例目に「FSC森林認証」を取得しました。持続可能な森づくりの先進地です。」 ※秋材:春から夏の暖かい時期に成長した色の白い部分を「春材」、夏の終わりから秋の低温な時期に成長した色の濃い部分を「秋材」と呼びます。秋材は、春材に比べ強度が高く油脂分が豊富です。

「林業は木の命の一瞬を使わせてもらっている」速水

木の時間からすれば、人間の時間などとるに足らない。林業をしていると自分の寿命も気にならない。年齢も忘れて暮らしている。

山林見学 速水林業 大田賀山林

環境に配慮した持続可能な森林経営

速水さんが案内してくれた太田賀山林は、太陽の光が林内に差し込み明るい雰囲気です。ヒノキ林のところどころに広葉樹が繁茂しているのが速水林業の森づくりの特徴。「広葉樹があることで生物多様性が確保され、その結果、土壌が豊かになり、樹齢が増しても生長が止まらず、材の中心から外周まで同じ年輪幅の木が育ちます。皆が感動する美しい森が収益性の高い森であることを本当は山側の人にも知ってほしい。」と速水さんは話します。
森から出たところで、牡蠣の養殖いかだ用に伐った丸太を見せていただきました。「手入れの行き届いた森から流れ出る水はきれいだから、下流域で牡蠣の養殖や魚の養殖を支えているんですよ」と森の恵みは海の恵みにも関係していることを知りました。

「林業、製材所、森林組合、自治体、現場一体となって努力している。」速水

使いやすいものを提供し、山側にお金がのこり、「伐ったら植える」という状態をつくることが大きな目標。現場一体となって努力している。

伐った木が全木のまま積み上げられた広い「土場」

山から伐って搬出した原木を集める土場(どば)では、よく目にするクローラー式のものではなくホイール式※のものが目立ちました。「働く人の安全と森の土壌を傷めないことを考慮して速水林業が独自に輸入しているんです」と速水さん。
「また通常、伐った木は搬出しやすいように現場で決められた一定の長さに玉切り※しますが、速水林業では全木(長い状態のまま)搬出しています。それができるのは、道が整備されているから。こうすることで長尺の材など様々なニーズに応えることができるんです」と様々な工夫を紹介してくださいました。 ※クローラー式:走行部分に履帯(一般的にいうキャタピラー)を採用したもの。ホイール式とは車輪を採用したもの。
※玉切り:伐り倒した木を用途に合わせて一定の長さに切ること。

製材所見学 塩崎商店

一本ずつ木を見ながら付加価値の高い製品を挽く

「塩崎商店」では三代目の塩崎康弘さんが、実際に何本かの原木を製材機で挽いてくださいました。最初に鋸を入れた原木の断面を見て、どんな製品(板)をとったら、いちばん高く販売できるかを瞬時に判断して的確に作業を進める姿にプロの技を見ました。「節が出ないように挽いています。芯に近くなるほど節が出やすくなりますが、この地域の手入れの行き届いた木だと、6センチまでせっても節が出ないのです。」と濱田さんが解説してくれました。一本ずつ木を見ながら製材していくのは、機械的に製材する大規模な製材所に比べ効率はよくありませんが、付加価値の高い製品を挽くことができます。

「幅の広い木の使い方って、いま、実は困っています」濱田

建築で上質な枠材 として使うものですが、その需要が落ち込んでいる。この材料、実はいま、まな板用に造っていたりします。ぜひ、アイディアで活かして使っていただきたいのです。

「ここからここまで節がありませんっていうマーキングなんです」濱田

これなら木材を知らない人もできます。節の多い材でも、無い部分を家具など、裾広がりの使い方ができないか。チャレンジしています。

「ここからここまで節がありませんっていうマーキングなんです」濱田

これなら木材を知らない人もできます。節の多い材でも、無い部分を家具など、裾広がりの使い方ができないか。チャレンジしています。

意見交換会 熊野古道センター

「もり」と「まち」の対話で見えた、新たな意気込み

60~80年生の尾鷲ヒノキ6549本を使用して建てられた「熊野古道センター」の交流棟ホールで意見交換会を行いました。主催者から「ご自身のビジネスの中でどのように木材を使っていきたいですか」という質問が出され、参加者からは様々な意見やアイデアが出されました。
また、産地側として「森林組合おわせ」の濱田さん、「塩崎商店」の塩崎さん、コーディネーターの川畑さんが出席し、活発な意見交換が行われました。木材の背景にある森づくりや製材の技術、産地の人々の想いを知り、木質空間づくりへの新たな意気込みが生まれました。

意見交換会 意見交換会

参加者からの声 Voices from Participants

百貨店Aさん

私は百貨店の催事関係の仕事をしていますが、催事会場で木材製品を紹介する際に、お客様に商品が生まれた背景にある森のことやどんな人たちの手を介して商品化されたのかを知っていただきたいと思いました。

木材調達コンサルタントBさん

林業家も製材所も材になったときの価値を上げるために様々な努力を積み重ねていることを改めて感じました。“もり”側の努力を価値として“まち”側に伝えていく必要があります。

広告代理店Cさん

木は風合いとか、香りとか、色味とか、一つひとつに個性があることを知りました。そういった木の個性を生かしたノベルティ商品などを提案していければと思いました。

空間デザイナーDさん

木材の節や年輪を育て方でコントロールしているというお話が興味深かったです。通常は無節材が喜ばれますが、あえて節を活かしたデザインも面白い。変わった節目や曲がりなどの木材も情報発信していただけると、アイデアが浮かんできて利用できるかもしれないと思いました。

一次加工事業者Eさん

今回の体験会に参加して、木材利用の活性化には、木材生産地とのネットワークをつくっていくことが必要だと思いました。クリエイターの方々には、木を使っていただきたいのはもちろんですが、その木材が伐採地の森林環境や地域社会に配慮したもの、フェアウッドであるかどうかを意識して使っていただきたいです。

産地からの声 Voices from the Producers

沖倉 善彦さん
速水亨さん 速水林業 代表

森と人の関わりに想いをめぐらせ、可能なら無垢の木材を 木材は、単に自然素材というだけではなく、育てた人の想いや、その森と共に生きてきた人々の暮らしが関わることでできています。そのことに想いを巡らせていただければ幸いです。
その上で可能なら無垢の木材を使っていただければありがたいです。加工度が高くなればなるほど、そこに費用がかかり、山に戻るお金が少なくなり、持続的な森づくりが難しくなります。木材には様々な顔があります。その性格をうまく引き出して使っていただきたい。

速水 亨さん
塩崎 康弘さん 塩崎商店(製材所)

こういう板が欲しい!というアイデアがあったら、ぜひ相談してください。 板は、どの製材所で挽いても同じだと思われるかもしれませんが、私のところで挽いた板は色やつやが違うと自負しています。製材するときは、捨てる部分がなるべく出ないよう頭の中で計算しながら挽いています。
モノづくりにはストーリー性が重要だと思っています。尾鷲の材には、この山で育って、あの人が伐って、誰が板や柱に加工して、というストーリーがはっきり見えています。お客様の注文に応じて製品を挽くこともできるので、こういう板が欲しい!というアイデアがあったらぜひ相談してください。

濵田 長宏さん
濵田 長宏さん 森林組合おわせ

一本一本の木に語りつくせない物語がある 林業のご説明をすると「山に木を植えて、育てて使えるようになるまで長い時間がかかるので大変ですね」と言われます。でも現実の私たちは、植えたばかりの木だけではなく30歳の木にも、100歳の木にも関わっています。細い木も太い木も使っていただくことが持続的な森づくりにつながります。
尾鷲の木の一本一本に語りつくせない物語があるんです。空間クリエイターのアイデアや発想で、森から出てくる木材を余すところなく使っていただけるとうれしいです。

コーディネーターの想い Voices from Coordinators

川畑 理子さん
川畑 理子さん 株式会社グリーンマム 代表

クリエイターの皆さんが、森を育てるために大切な存在 今回の体験会を終えて、川上と川下が意見交換をすることで、離れているようで実は切っても切れない関係であることを実感しました。耳を傾け合うことの重要性を感じることができたと思います。そして、参加者にいちばん気づいて欲しかったのは、いかにクリエイターの皆さんが森を育てるために大切な存在であるかということです。
人々が木に触れたり、木を感じたりするきっかけを作ってくれるのが、クリエイターが生み出すデザインです。そして木を使うことで、「木を植え、育て、適切に伐り、活用する」というサイクルができ、豊かな森を育て続けていくことができます。木材を「使う」という考えを持つことが、単に高いデザイン性を発揮するだけでなく、日本の木材産業、林業、そして環境問題にまで大きく貢献することができるのです。

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