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Online Seminar Report オンラインセミナーレポート|木材を活かすクリエイティビティで未来につなぐ 資生堂「BAUM」の取り組み&木材産地と
空間クリエイターが共に考える空間デザイン

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アーカイブ動画を視聴後、今後の木材利用とその促進活動をより良くするためアンケート回答にご協力をお願いいたします。
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アンケート終了期限:2021年3月31日(水)
※予告なく終了する場合があります。

About

国産材の価値を高めて利用することで、
森を育む空間デザインを目指して。

もり”側から“まち”側まで、木材利用に関わるさまざまな立場のプレイヤーをお招きし、空間デザインやブランドづくりをテーマにしたオンラインセミナーを開催いたしました。クリエイティビティによって木材の価値を高めることで、企業の持続可能な事業活動や森林・林業の自立的な経済活動、森林環境の保全に貢献する可能性について考えました。

Session1では“樹木と人の共生”を通して美しい循環を未来へつなぐことを哲学に掲げる新スキンケアブランド資生堂「BAUM」のクリエイティブディレクター信藤洋二氏をお招きし、一般社団法人 日本空間デザイン協会会長の鈴木惠千代氏とともに「サステナブルなブランドストーリーづくり」についてお話ししました。

Session2では「もりまち産地体験会」をきっかけに生まれたものがたりをテーマに、“もり”で活動する林業・木材産業事業者と“まち”で活動する空間クリエイター、その両者をつなぐ木材コーディネーターと共に、国産材(スギ、ヒノキ等)の価値を高めて活用することと、その先にある空間デザインの可能性についてお話ししました。

Opening

木材利用の活性化を皆さんと一緒に考えていきたい

はじめに主催者を代表して乃村工藝社の加藤悟郎より「SDGsが国際的な目標となりサステナブルな社会の実現が求められています。日本の人工林は伐って使う時代に入るなど、国産材の利用拡大、とりわけ今まであまり使われてこなかった分野での木材利用が重要な課題となっています。その鍵を握っているのが、木材利用を提案する空間クリエイターと、導入の意思決定をする事業者です。」

「今回、“もりまちドア“と命名したプロジェクトでは、産地体験会の実施、ウェブサイトの開設、ウェビナーの開催と、3つのアクションを起こしました。オンラインセミナーでは、新たな発想による木材の再評価を事業コンセプトやデザインとして展開されているお二方、そして実際に産地体験会にご参画いただいた4名の皆さまにお集まりいただいています。今後どのように木材利用を活性化していけばよいか、ということをオンラインセミナー参加者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います」と開会の挨拶を述べました。

General Information

木材利用を通じた森林資源の循環が重要

続いて林野庁木材利用課の武藤信之氏から、今なぜ木材利用に取り組む必要があるのか、その背景の説明がありました。武藤氏は「日本の人工林については、現在、林齢が51年生以上のものが約半分となっており、これらは収穫する時期に入っています」、「人が植えて、育てて、収穫するという人工林の循環の中で、適材適所で木材が利用され利益が適切に山元に還元されることで、また植えるという循環につながっていきます」と述べました。そして、森林資源が充実する中で新たな木材需要を創出していく観点から「これまであまり木材がつかわれてこなかった非住宅建築物や中高層建築物での取り組みが重要」であると述べました。また、木材利用には、ビジネス面の効果、地球温暖化対策への貢献、SDGsや地方創生など社会的課題の解決などさまざまな意義があることが紹介されました。

Session1

森を未来につなぐクリエイティブディレクター対談
資生堂「BAUM」が挑戦するサステナブルなブランドストーリー

空間づくりに木材を利用する際の一つの大きなきっかけとして事業者のニーズがあります。セッション1では、資生堂の新ブランド「BAUM」を手掛けた信藤洋二氏と日本空間デザイン協会会長の鈴木惠千代氏の二人のクリエイティブディレクターがトークセッションを行いました。

樹木と人の共生がもたらす美しい世界

「BAUMは日本人が古来より大切にしてきた“自然との共生”という思想に根差しサステナブルな社会の実現を目標にしています」と信藤氏がブランドビジョンを説明。さらに「BAUMは樹木のはたらきに着目したスキンケア製品で、香りも樹木由来の天然香料を中心に調合しています。製品パッケージに使う木材は家具を作るときに出た端材を有効活用し、木製パーツはレフィル交換により繰り返し利用することができます。また、ショップ内では苗木を育てていて、この苗木は“BAUMの森”へ植樹する予定です」とサステナブルに配慮したブランドであることを紹介しました。また「樹木と人の共生を通じて、その恩恵に感謝しながら美しい循環を未来へと、自分たちの手でつなぎ続けることがフィロソフィーです」とブランドの特徴を紹介。「BAUM」はコミュニケーションにInstagramやSNSを活用していて、これもサーキュレーションを考慮してのこと、ということです。

クリエイティビティが木材利用の可能性を拡げる

続けてブランドコンセプト着想の背景や木材利用の状況、今後の展開について信藤氏と鈴木氏が話し合いました。「そもそもどんな視点から発想したのですか」という質問に対し、信藤氏は「我々が関わる前から社内でナチュラルブランドをつくる企画が始まっていました。その中で、日本の文化を体現するブランドをつくるべきだという議論があり、日本人の暮らしに根付いている樹木に実は肌にもいい効果があるということがわかってから一気に進みました」と回答。

また、木材を利用したデザインに関しては「ライフスタイルの中に樹木の化粧品を取り入れていただきたいという思いを込め、樹木と長く付き合っていただけるシンプルなデザインを追求しました」。さらに、ショップ内で苗木を育てていることに関して「ディスプレイとしてだけではなく、お客様にサステナブルな活動を知ってもらうための仕掛けの一つです」と説明しました。

森林を観察していると、多くの可能性に気づく

次に鈴木氏が自ら手掛けた空間を紹介しながら、木材利用の可能性について語りました。「私がつくった空間の一つに三菱地所さんの3×3 Lab Futureというサードプレイスがあります。ここでは空間の中に森のすべてを使おうと考えました。例えばレセプションカウンターの下には尾鷲杉のキューブを並べ、断面を露出することによって空間に香りが広がるようにしています。またスライディングウォールは伊那の有賀建具さんに製作を依頼して、日本にあるさまざまな広葉樹を使ってつくっていただきました。これ全部で20種類ぐらいかなと思っていたら、なんと100種類以上ありました。森をすみずみまで観察しながら、どんな風に利用できるかなと考えていると、実にさまざまな可能性に気づきます。

石油資源には限りがありますが、森林はちゃんと整備していけば持続的に使い続けることができる資源。木材の可能性は大きいですね」と木材利用への期待を述べた。信藤氏も「樹木の魅力はたくさんあるのでさまざまな可能性を見つけていきたい」と答えました。最後に鈴木氏が「樹木を一つの材料としてみるだけではなく、さまざまな面で樹木の持つ力を活かしてBAUMのブランドを構築していることを知って、とても励みになりました」とセッションを終えました。

Session2

「もりまち産地体験会」参加者トーク
国産材(スギ・ヒノキ等)を価値高く活かす空間デザインのために

2020年に開催された「もりまち産地体験会」に参画した“もり”側と“まち”側の方々、それをつなぐ木材コーディネーターが登壇し、産地体験会を経て感じた課題などを発表し、国産材活用とその先にある空間デザインについて語り合いました。

“森を育む空間デザイン”の3つの視点から木材活用を話し合う

セッション2では乃村工藝社の加藤悟郎がモデレーターを務め、「もりまち産地体験会」に参画した“もり”側の林業家・井上淳治氏、“もり”と“まち”をつなぐ役目の木材コーディネーター・川畑理子氏、“まち” 側の空間クリエイター・大西 亮(乃村工藝社)、事業者としてファンドプロデューサー・相澤一紗氏の4名が登壇しました。さらにトークテーマとして、“森を育む空間デザイン”の視点として、「木材の背景を価値にする」、「(木を)丸ごと一本全てを活用する」、「(ものづくりの)プロセスからリデザインする」という3つを挙げセッションを進めました。

課題解決にクラウドファンディングを活用

飯能の産地体験会に参加したミュージックセキュリティーズ株式会社のファンドプロデューサー・相沢一紗氏が登壇。ミュージックセキュリティーズ社は、クラウドファンディングのインパクト投資プラットフォームを運営しています。

相澤氏が感じた、①林業の事業サイクルが長く収益構造に難点、②海外からの木材価格に押され取引価格が下落、③国内での投資が限定的、④PR・情報発信の遅れという4つの課題を提示し「これら課題を解決して次の森づくりにつなげていくには一つの事業者だけでは難しい。自治体、地域住民、地域の事業者など幅広い連携で大きく事業を動かしていく必要があります」と述べました。

また、解決策の一つとして過去に同社が行った西粟倉村「100年の森構想」への投資事例を紹介。「社会性を重視したインパクト投資、ESG投資を含むさまざまな投資を組み合わせたブレンドファイナンスなどで資金調達をすることが課題解決に有効では」と見解を述べました。

乃村工藝社の大西は「ファンディングはクリエイターにとっていちばん遠いお話。ESG投資でもE(環境)とS(社会)まではわかるけどG(ガバナンス)になると縁がありません。しかし、プロセスを管理してデザインしていくことはとても大事。我々もただ木材を活用するだけでなく、木材生産のプロセスを遡ってみることがいまの時代に求められている」と感想を述べました。

一本ずつ個性が違う木は、その使い方も多彩なはず

次に登壇した林業家の井上氏は「人と森との関係が遠くなっています。また、暮らしの中で本物の木に触れることが少ない。人と森の関係を見直し、みんなが森を身近に感じられるようにして、身の回りに本物の木をたくさん使っていただきたい。そうすることで便利なだけでなく、豊かな生活ができます」と主張。

また「木は同じ森で育った同じ樹種の木でも色や形、年輪の幅などがまったく違う。1本ずつ個性があるのが木の魅力でもあり、使うのが難しい点でもある。柱や板だけでなく、枝や樹皮、根っこなど考え方ひとつでいろいろな使い方があるはず。私たちでは発想に限界があるので、クリエイターの方々に期待しています」と述べました。そして「木材が育まれた森という背景まで含めてデザインをすると面白いものができそうです。森にはたくさんの魅力があるので、たくさんの方に森に来ていただきたいです」と締めくくりました。

木材コーディネーターの川畑氏は「木材産地の人と都市部の人をつなげるのは、まさに私がやっている仕事です。“もり”と“まち”がつながることで新しい商品がうまれ、森林の空間を感じることで木材っていいなと思う人が増えたらいいですね」と感想を述べました。

地域とクリエイターをつなぎ、空間づくりをサポート

3番目には、木材コーディネーターの川畑理子氏が、仕事の内容について「木材コーディネーターの役割は“もり”側の林業・製材業の人たちと“まち”側の空間クリエイターやエンドユーザーをつなぎ、両者が納得できる空間づくりをサポートすることです。その結果として、森づくりや地域の活性化、企業の社会貢献を提案し、一緒になってつくり上げることを目的に活動しています」と説明。

また、「森にはさまざまなはたらきがあり、その森を育んでいるのが地域産業である林業です。林業が経済的に成り立つには、皆さんに木材を使っていただくこと」と訴えました。そして木材コーディネーターの使命として、地域とつながり新たな木材利用を創出する、木材利用を通し地域に貢献する、さらに地域の可能性を引き出す、環境教育や講演などの木材利用の普及活動など多岐にわたることを、事例を挙げながら説明しました。まさに木材利用に関するすべてのプロセスを踏まえ、そこからリデザインすることで価値を生み出しています。

ファンドプロデューサーの相澤氏は「お話を伺い、森は地域の資源だとわかりました。プロの木材コーディナーターが入ることでいい循環が生まれていくのだと思います。木材コーディネーターの知名度や認知度が、このウェビナーを通じてもっと広がっていくといいと思います」と話しました。

ちょっと川上・ちょっと川下へ広げ、連鎖していく

最後に乃村工藝社の空間クリエイター・大西 亮が産地体験会に参加して思ったことや参加後に自分の中で何が変わったかを話しました。「森の中を案内していただき説明をお聞きすると、クリエイターとしての使命感が湧いてきました。自分は尾鷲の隣の紀北町生まれで森は身近なものでしたが、林業の経済性に関することは深く知りませんでした。自分に何ができるかを考えながら森を歩いていたわけですけど、単純にデザインというアウトプットをするだけでなく、もっとプロセスや経済性まで立ち入って考えないといけないと思いました」。

また、体験会を経て変わったことを、今まで手掛けた仕事を紹介しながら説明。「体験会後の“PARA HEROes 展”(一般社団法人日本肢体不自由者卓球協会)では、モジュール化という方法で下地も含め100%フェアウッドを実現し、ゴミをなくすことにもチャレンジました。プロセスも含めて記憶に残し伝えていくことで、モノへの接し方も少しだけ丁寧になっていく気がしました。いままでは事業者さんやエンドユーザーに向けて伝えるということをやっていましたが、それだけではなく川下から少し川上の作り手の人にもスポットを当て、プロセスもデザインしていく、伝えるということを考えるようになりました。一足飛びにはいかないでしょうが、デザインができることの一つかと考えています」と述べました。

林業家の井上氏は「クリエイターの方がここまで考えてデザインしていることに驚きました。カタチだけでなく、記憶に残るものという言葉が印象に残っています。大西さんにも、ぜひ飯能の森に来ていただきたいです」と感想を述べました。

“もり”と“まち”が出会い語り合うことが重要

モデレーターの加藤が「さまざまな立場の方からいろいろなご意見をいただき、ぜひこれをつなげて新しい発見、新しい価値の創出につなげていきたい」と述べ、オンラインセミナー視聴者からいただいた質問を紹介しました。

一つ目の質問は「いま森で挑戦しているイノベーションは?」というものでした。井上氏は「林業の専門的なことは別として森のよさを地道に伝えて、たくさんの人に森に来ていただきたい」と回答。

もう一つの質問は「デザイナーにとっていい木とは?」というもので、これには空間クリエイターの大西が「マテリアルとしてだけでなく、そこに背景がある木がいい。ただし、その背景はデザイナーが見つけて、引き出さないといけない」と答えました。そして「木材の価値を高めて利用することで森の循環につながっていく。産地の方々とクリエイターが積極的にコミュニケーションすることが大事だと思う」とモデレーターの加藤がまとめてセッションを終えました。

Closing

“もりまちドア”が、明るい未来への入口になる

閉会にあたり共催の一般社団法人 全国木材組合連合会の森田一行から挨拶がありました。「全国木材組合連合会は、ウッドファースト社会の構築をテーマに木材を通じた仲間たちと木材で街づくりをしていく活動をしています。木材は、山で丸太となり、製材されて板や柱に形を変えながら最後は建築物や家具などになって人々のもとに届きます。この木材の流れを支えているのが“人”なのだと改めて感じました。また、木材の利用拡大には、多様な発想や考え方を持った人が一つの場で出会い、課題を共有し、話し合っていくことが大切です。“もりまちドア”がそうした場の一つとなり、明るい未来の出入り口となることを期待しています」と総括し、参加者と登壇者の皆さまに感謝の言葉を述べて締めくくりました。

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