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Visit 01. 東京都 多摩産材 林業地 木の“ストーリー” をデザインに

案内してくれたのは、秋川木材協同組合で多摩産材の普及・利用促進に尽力している髙濱謙一さんです。田中林業の「遊学の森」、多摩産材の流通拠点である「多摩木材センター」、「沖倉製材所」などを見学し、多摩産材を活用した「kitchen CANVAS」で意見交換をしました。

案内人

高濱 謙一さん
もりまち
コーディネーター
髙濱 謙一さん 秋川木材協同組合 事務局長

紙の専門商社で新規開拓営業を長年務め、2018年に紙から木の世界へ転職。林業会社を経て、現在、秋川木材協同組合事務局長。多摩産材の普及・利用促進に尽力し、個人事業主としてエコツアーガイド・ランドオペレーターとしても活躍中。

オリエンテーション フォレスティングコテージ

東京には豊かな森がある

江戸時代から続く田中林業のフォレスティングコテージで、髙濱謙一さんから体験会前のオリエンテーションを受けました。「東京都の面積の4分の1が森で、その森の7割が多摩地域西部にあり、その中でも檜原村は村面積の9割が森です」とのお話に驚く参加者も。さらに「人工林の多くは昭和30年代から40年代(1955~1975年)かけて植えられたもので、樹齢50年以上のものが7割、20年以下の若い木は1割にも達しません。いま木材として利用できる木はたくさんあるけれど、将来、木材として利用できる若い木がとても少ない。これを解消するために使える木を伐って、上手に使い、伐った後に木を植えて持続可能に森づくりをしていく必要があります」という意見に大きくうなずいていました。

東京の木「多摩産材」を東京のまちで使うメリット

髙濱:「多摩産材とは、多摩地域で適正に管理された森から生産された木材・製材品。「多摩産材認証協議会」が定める制度によって認証を受けたものだけが「多摩産材」と名乗ることができます。多摩産と認証された木材は、どこで育ち、誰によって製品に加工されたかを辿ることができます。東京の木、多摩産材を東京のまちで使うことで、輸入材利用に比べ輸送時のCO2発生量を圧倒的に抑えることができます。さらにCO2を固定化した木材を内装等に使うことで“まち”の中に“もり”をつくるのと同じ効果をもたらし地球温暖化対策に貢献できるのです。」

「何が足りないのかというと、「デザイナー」だと思うんです。」髙濱

このあたりってストーリーは山ほどあります。素材もあります。だけど「デザイン」が足りないんです。やっぱり「デザイン」がないと買ってもらえない。ぜひそういうところに、力添えを頂きたいなと思っています。

山林見学 田中林業 遊学の森

急傾斜の山林での林業ガイドツアー

「デザイナーの手で付加価値の高い製品をつくることが、山主に利益を還元し、森づくりを持続していくために必要です。木を使えるデザイナーがまだまだ足りません。今日は、林業を学ぶために整備した「遊学の森」を歩きながら、木材として使う木がどのように育てられているのかしっかりと体験していただけばと思います。」髙濱さんの後に続き、「遊学の森」に入りました。スギとヒノキ、サワラの違いや同じ樹齢でも育つ環境により太さが違うこと、森の生態系が川を経て海洋にまで影響していることなど、髙濱さんのガイドを聞きながら、足元を踏みしめて急傾斜を歩きました。針葉樹との違いを学ぶために残された広葉樹の森に入ると地面は落ち葉でふかふかに変わります。こんな斜面から伐採木を運びだす大変さを想像しながら、エコツアーガイドのプロでもある髙濱さんのお話にすっかり引き込まれていきました。

「森が健康じゃないと、魚が健康じゃない。そこまでつながっています。」髙濱

雨が降ると、森が水分を吸収し、森から海へゆっくりと森で作られた鉄分が流れていきます。その鉄分を植物性プランクトンが食べて、それを動物性プランクトンが食べて、またそれを小魚が食べる。食物連鎖のサイクルになっているんです。

原木市場見学 多摩木材センター協同組合

森から伐り出された木は原木市場へ

次に訪れた「多摩木材センター協同組合」は、都内唯一の「原木市場」です。多摩地区や一部埼玉県の飯能などの森から伐り出された丸太がここに集められ競りにかけられます。競りが行われる原木市は、月に2回開催され製材業者などが集まります。ここでは、東京都森林事務所 森林産業課の職員が多摩産材・国産材の活用に対する東京都の補助事業について説明。関心を示す参加者も少なくありませんでした。同じ長さに切り揃えられた丸太が、丁寧に積み上げられた貯木場の光景に、想像以上の量の原木が出ていることに驚きました。

製材所見学 沖倉製材所

製材は、木に第二の命を与える仕事

次に訪れたのは沖倉製材所。原木市場で競り落とされた丸太は製材所に運ばれ、皮を剥かれ、製材機にかけられ、注文に応じた板材や柱材などに加工されます。「丸太」という自然物が、製材されて「木材製品」となる工程を間近で見ることができました。製材された木材製品は、用途に応じて天然乾燥や乾燥機を使用する人工乾燥にまわされます。柱や梁、土台などに使用する構造材は、乾燥後にグレーディングマシン(木材性能検査機)にかけられ、一本一本強度と含水率が測定され、測定数値と「多摩産材」の文字が材に印字されます。

「東京の森をつなぐ、ということを数十年やってきている。」沖倉

多摩産材のブランドができる前から東京の木を売り続けて、東京の森をつなぐということを数十年やってきて、今に至っています。まだまだ東京の森を出して行くつもりです。

意見交換会 do-mo kitchen CANVAS

価値を高める使い方で、地域の森が甦る

体験会の最後に地元で多摩産材活用に尽力している中嶋材木店の中嶋博幸さん、あきがわ木工連の佐藤誠さんから多摩産材活用の事例を紹介していただきました。東京という大消費地のすぐ近くに、これほど豊かな森林があり、そこで真剣に木材の生産、流通、加工に携わっている人たちがいることを知ったのは大きな驚きでした。素材の一つとして木材を利用するだけにとどまらず「東京の木」のストーリーを活かすことで、新しい木材利用を追求していきたいと感じました。

意見交換会 意見交換会

参加者からの声 Voices from Participants

電鉄会社Aさん

私は施主の立場なので、木材生産や流通には詳しくありませんでした。今日、多摩産材は供給量も製品数も整っているとお聞きしたので、これから様々な場面で東京の木「多摩産材」を使えるよう努力したいです。

観光会社Bさん

森林の生態系が海までつながっていることや未来に森を残していくには、いま木を伐って使っていくことが必要であるというお話が印象に残りました。今日得た知識を社員と共有していろいろなことを考えてきたいです。

工務店Cさん

今日、見た森は金銭で計り知れない価値があると感じました。いま大工の技術を持った者が少なくなっています。工務店の立場から言うと、伝統的な技術を継承するだけでなく、木質空間の魅力をみんなに伝えるのも使命だと思いました。

空間デザイナーDさん

森を育て木材をつくるのに、どれほど手間がかかっているかを知りました。デザイナーである自分にできるのは、人々が「木を使いたい」と思える事例をつくること。過去の事例にとらわれず新しい挑戦をしていきたいです。

産地からの声 Voices from the Producers

沖倉 善彦さん
沖倉 喜彦さん 有限会社 沖倉製材所 代表

皆さんの身近にある木を活かしたデザインや空間づくりに取り組んでほしい 沖倉製材所は、私の父が昭和25年(1950年)立ち上げ、一本でも多くの多摩産材を製品に加工して世に送り出すことを使命に、最近では工務店と連携しながら、東京の木を東京で使う、木の地産地消に取り組んでいます。皆さんには、木のことをもっとよく知っていただきたいですね。そうすればもっといろいろな提案ができるはずです。多摩産材のことでわからないことがあれば何でも相談していただければお答えできます。皆さんの身近にある木を活かしたデザインや空間づくりに取り組んでほしいですね。

中嶋 博幸さん
中嶋 博幸さん 有限会社 中嶋材木店 代表

何でもできるから、まず相談してください 木材って使い方が難しい、調達するのが難しいって思っている方も多いと思います。そういった方に私が言いたいのは、「何でも相談してください」ということです。私は素材を提供することしかできませんが、素材をいろいろ加工する業者のネットワークを持っています。「何でもできるから、まず相談してください」ということをいちばんお伝えしたかったです。多摩地域は大きな木材産地ではありませんが、東京の森という利点があります。このストーリーを活かして付加価値の高い製品づくりをしてほしいですね。そうすることで山にも利益を還元し、循環させて森づくりを行えます。そのためには、どんなことにでも相談にのりますよ。

小森 栄さん
小森 栄さん 多摩木材センター協同組合 専務理事

「東京の木」というストーリーを活かし、価値ある使い方を! ここは東京都で唯一の原木市場で、多摩産材の原木はここで売買が行われています。今は原木の供給量も安定していて、今年は平均で月に700立米ほど。コンスタントに材が出てくることが、この原木市場のアピールポイントです。多摩地区の人工林は約3万ha。全国の大きな林業地に比べれば大きくはありませんが、しっかりした認証を行っています。東京の森で伐られた東京の木というストーリーを活かして、付加価値のある製品をデザインしていただきたいですね。

佐藤 真さん
佐藤 真さん 一般社団法人 多摩産材活用あきがわ木工連

木を使うことの背景に森を循環させるストーリーがある 私も家具デザインをやっていて、最初は木などの自然素材は使いにくいと感じていたんです。しかし、知れば知るほど、木が好きになって、使いづらいところをデザインでカバーしようと考えるようになりました。今日、参加された方が口々にストーリーということをおっしゃっていましたが、私が思うにストーリーとは「理」(ことわり)だと思います。そこに使いたい「理由」があるから使う。その「理由=ことわり」を、ぜひ見つけてほしいと思います。「もり」から「まち」までの木材生産・流通の循環をまわしていけるのは、創造することを仕事にしているクリエイターだと思います。木を使うことの後ろには、森を循環させ持続させるという大きなストーリーがあることを意識してほしいです。

コーディネーターの想い Voices from Coordinators

髙濱 謙一さん
髙濱 謙一さん 秋川木材協同組合 事務局長

参加された方にいちばん伝えたかったのは「東京の木、多摩産材のストーリー」 今回の産地体験会で、参加された方にいちばん伝えたかったのは東京の木、多摩産材のストーリーです。多摩産材は、その木が育った森から木を伐った業者、製材した業者までずっと辿ることができます。しかも、木が生まれた森を見ようと思えば電車に乗って1時間半ほどで来ることができる。例えばテーブル一つとっても、そこから物語がふくらみます。デザインする方には、そういったストーリーを価値に変換していただきたいと思います。木材の利用には「気づいて、知って、選んで、使う」という過程があります。「気づく」ことが今回の体験会でできたので、次はもっと多摩産材のことを「知って」いただきたいと思います。生産、流通に関わる人間とプランニング、デザイン、発注をする人間との間に交流が生まれることで新しい木材の活用事例をどんどん生み出していただけないかと期待しています。

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